ラブホテルのことがすべてわかります
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ラブホバイブル〜ラブホテルのことがすべてわかります

複雑怪奇なラブホテルの制度〜これであなたもラブホ博士だ

ラブホテルの沿革

◆モーテルの出現

ラブホテルという形態がいつ頃から確立し始めたのかは、正直なところよくわからない。ラブホテルが出現する以前は、古くは待合いと呼ばれるものや、連れ込み旅館・飲食店などがいわば男女の密会場所として利用されていたようであるが、現在のラブホテルのように”それ専用”と言うより、”それも可能”といった程度の存在であった。
人々がラブホテルという存在を明確に意識するようになったのは、モータースホテル(モーテル)の誕生からである。ラブホテルは今でこそ”ラブホテルテル”と呼ばれるのが一般的になったが、その昔は”モーテル”と呼ばれることが多いぐらい、モーテルがラブホテルに占める位置づけは大きかった。今でも年配の方はラブホテル全般を指して”モーテル”と呼ぶなど、その名残は残っている。

モーテルが最初にオープンしたのは、色々と説もあるようであるが、警察白書によると昭和34年10月に神奈川県箱根町とされている。
本来、モーテルという形態は欧米においては自動車で移動するための純粋な宿泊所として発展したものであるが、日本においては独自の道を辿ることになる。
このへんの説明に関しては、警察白書の表現を借りるならば「自動車で乗り付ける男女同伴の客を対象とした性の享楽場所」ということになる。
「性の享楽場所」とはいかにも男女間の性交渉をタブー視していた当時の世相を表現する言葉であり、興味深く感じられる。

◆モーテル規制法

モーテルは、ワンルームワンガレージ式と呼ばれる自動車の車庫と客室とが直結している構造をその特徴とした。車で車庫に入ってしまえば、そこからは誰の目にも触れずに客室に入ることができ、今ほど性の解放が進んでいない時代において男女の密会場所として人気を博す。昭和43年に1413軒であったモーテルの数は、わずか数年後の昭和47年には5919軒という急増ぶりを示す。
そうした事態に困惑し、何かしらの規制の必要を感じた行政サイドは、昭和45年に旅館業法の改正を行い、ホテル業の許可の条件として「善良の風俗の保持」という文言を付け加えるとともに、学校の周辺だけでなく社会教育施設や児童施設の周囲100メートルの区域内での建築を制限したり、旅館業法施行令において帳場(フロント)を設けなくてはならないとの規定を設けるなどして、モーテルの増加に歯止めをかけようとする。それに対してモーテル側は形だけのフロントを作ることで対応、モーテルの増加は一向に収まらない。
各地で次々と起こるモーテル反対運動や議員に対する陳情、加えて「モーテルは犯罪が多い」という理由でモーテルに何らかの形で関与して権益の増大を考える警察の思惑も絡み、昭和47年に風俗営業等取締法の改正(いわゆるモーテル規制法)が行われ、ワンルームワンガレージ式にメスが入れられることになる。
これは、モーテルの問題は誰にも顔を合わせずして車庫から部屋に直行できることにあるとした上で、次のようなモーテル営業は都道府県の条例で定める地域においては営むことができないとされたのである。

(モーテル営業の定義)

個室に自動車の車庫が個々に接続する施設で、次のいずれかに該当する構造を有するもの
●個室に接続する車庫(天井又は屋根、及び2以上の側壁(衝立、カーテンその他を含む)を有するものに限る。以下同じ)の出入口が扉等によって遮蔽できる構造
●車庫の内部から個室に通じる専用の人の出入口又は階段若しくは昇降機を有する構造
●個室と車庫とが専用の通路によって接続しているものにあっては、当該通路の内部が外部から見通すことができない構造
これを受けて、都道府県は続々と条例でこのような構造をとるモーテル営業をごく一部の地域を除きほぼ県下全域に渡って禁止区域に指定したことは言うまでもない。
(実際、このモーテル規制後も上記でいうモーテル営業として営業が存続できたのは昭和59年時点で7軒に過ぎない)
法においては過去にさかのぼって遡及しないことが原則であるが、この法案は既に建築・営業しているモーテルであっても、この都道府県の条例で定める地域に含まれた場合は1年以内に法の内容に沿って改造を施さなければならないといった非常に厳しい内容であった。現在存在するモーテルの車庫にはシャッターがないのも、車庫の後ろに他の客室と通じる共通の通路がわざわざ設けてあるのも、場合によっては車庫の外から一旦外に出てから客室に通じる階段を上がっていく構造がとられたりしているのも、このモーテル規制の網から逃れるためのやむを得ざる措置なのである。

◆昭和59年風営法の大改正

国策としてのラブホテルの封じ込めはこのモーテル規制に始まり、その後、幾度かの改正を経て、昭和59年の風俗営業等取締法の大改正となった「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(以下、風営適正化法と呼ぶ)でピークに達することになる。

この法律の施行がラブホテル業界に与えたインパクトはすさまじいものがあった。これでは業界は壊滅してしまうと言われたほどであった。
これまで風営法はラブホテルに関しては先のモーテル規制にのみ単発的に関わってきたに過ぎなかった。風営法にとってラブホテルは基本的にはその規制対象外であった。
しかし少年非行が4年連続最高を記録するとともに、ノーパン喫茶、のぞき部屋、愛人バンク、ホテトル等々と次々と新手の風俗が乱立する情勢下において、そうしたものを一括して規制管理する必要性を行政側は感じるようになっていた。
そして昭和59年に風営法の大改正(施行は昭和60年)が行われ、風俗営業と風俗関連営業という区分が設けられ、ラブホテルは風俗関連営業として正式に位置づけられることになる。これにより一定の地域における営業の禁止、年少者の立ち入り禁止、広告宣伝の規制、警察の立ち入り等といった現在の規制の原型ができあがったのである。

ちなみに風俗営業とは当時、国会で繰り返し行われた説明によれば「健全に行われれば国民に必要な娯楽なり憩いを与えるもの」であり、風俗関連営業とは「性を売り物にするセックス産業」である。よって、風俗営業は許可制、風俗関連営業は「許可制にすると国がセックス産業を認めたことになってしまうので届け出制」ということになった。言い換えれば、実態は今後ラブホテルの許可は認めず、現在するものだけは仕方がないので届け出という形で厳重な管理下においた上でその後も営業の継続は認めようという趣旨にも取れる。
もっともこの風営適正化法で対象になるのはすべてのラブホテルではなく、ラブホテルの中でも一定の要件(食堂・ロビーが設置されていない等。詳しくは後述)に該当するものだけである。いや、これは正確な表現ではないかもしれない。もう少し厳密に言うならば、風営適正化法はこの一定の要件に該当するものだけをラブホテルと位置づけたということなのである。私達がラブホテルと思っているものでも風営適正化法に該当しないものはラブホテルではなく、通常のホテル・旅館であるというのが国のスタンスなのである。
だが、このことが昭和60年以降、法律上ラブホテルではないラブホテルが堂々と建築される潮流を生み出したことは言うまでもない。ラブホテル業界は行政の裏をいく商売魂を発揮して、形だけの食堂やロビーを作ることによって風営適正化法から逃れ、ラブホテルではないラブホテルを次々とオープンさせ始めたのである。
これは正直、行政も予期しなかったことであり、ラブホテル業界が完全に裏をかいた形である。
風営適正化法の対象となるラブホテルを定義するにあたり、まさかラブホテルが食堂やロビーを備えるようになるとは頭の固いお役人には想像もつかなかった。

なお、この風営適正化法では昭和47年に設定されたモーテル規制の項目は消滅した。もちろんモーテル規制がなくなった訳ではなく、各自治体の風営適正化法の施行条例*に禁止地域における規定が引き継がれており、その効力はいまでも生きている。

*風営適正化法の施行条例の例(広島ー抜粋)

第十一条 店舗型性風俗特殊営業及び店舗型電話異性紹介営業は、次の表の上欄に掲げる営業の種別ごとに、同表の下欄に掲げる地域においては、これを営んではならない。

◆ラブホテル規制の終息と行政の縄張り争い

国としてのラブホテル規制はこの昭和59年の風営法改正がピークであり、以後、大きくラブホテルを規制・排斥しようとする動きは収束することになる。
平成11年、13年と風営適正化法の改正が行われ、風俗関連営業は性風俗関連特殊営業と名前が変わり、ラブホテルはその中の「店舗型性風俗特殊営業」として位置づけられ、広告規制の強化などが図られもしたが、影響を受けたのは従来からあるモーテルタイプのラブホテルだけであり、新規に建てられたラブホテルはいずれも風営適正化法の対象となっておらず、何の影響も受けなかった。
網をくぐり抜ける者が表れたら、更に新たな網を準備するのが今までの行政のやり方であるはずである。なのに、ラブホテルに関しては昭和59年風営法改正以来、そのような様子は見られない。一体これはどうした訳であろうか?

これにはいくつかの理由が考えられる。
憲法は職業の自由を保証している。それが営業の自由をも含むことは当然の解釈とされている。何人も公共の福祉に反しない限り、その営業に制約を加えられることはないのが原則である。ラブホテル規制というものは、その営業に制約を加えようとするものであるから、細心の注意が必要であることは言うまでもないことである。戦後、急速に進む性の解放の空気の前に、行政は冷静にラブホテル規制はこうした営業の自由を超えて制約をしなければならないほどのものではないと判断したとも考えられる。
又、実務上もこれ以上、ラブホテルの定義を広げることは現実にそぐわない面もあった。男女がセックスすることを日本語で「寝る」ともいうように、そもそも宿泊業とセックスというものは切り離すことが難しいものである。男女が来て宿泊するということは、自然の行為としてセックスが行われるのは特別のことでも何でもない。殊更、セックスが行われるという場所という観点からラブホテルの定義を広げていくと、すべてのホテル・旅館もがラブホテルに含まれてしまいかねないことになってしまう。

だが実際には、行政同士の縄張り争いによる相互牽制がラブホテル行政をにっちもさっちもいかない中途半端な状態で終息させたと見ることもできる。
戦前戦後を通し、警察の力は絶大であった。ありとあらゆる経済行為に警察が関与し、さまざまな職業の営業許可をも握っていた。それは旅館やホテルといった宿泊施設においても同様であり、衛生・風紀・保安等の見地から警察が深く関与していた。
読者の方も”臨検”という言葉を聞いたことがあるかもしれないが、深夜を問わずホテルや旅館に宿泊中にいきなり臨検と称して警官が入り込んできて、夫婦以外の男女を見つけるとしょっぴいていくことなど日常茶飯事であった。
だが、こうした絶大な権力を握る警察はGHQの指揮のもと、解体されることになる。旅館・ホテル等の宿泊施設に関しては昭和23年に旅館業法が施行され、以後、管轄は厚生省(現在は厚生労働省)に移った。”臨検”も廃止となり、これ以降は営業の取締は公衆衛生の見地からのみ実施されることになったのである。
しかし、こうした事態に警察も手をこまねいて傍観しているはずがない。警察は虎視眈々と旅館やホテルに対する影響力を何とか確保しようと機会をうかがっていた。
チャンスは意外に早く訪れた。犯罪の増加や女性・青少年の保護を求めて女性議員を筆頭に風俗や犯罪の抑止的効果には旅館業法だけでは不十分であるとの声が高まる。そうした声に長じて、警察官僚は昭和47年の風俗営業等取締法の改正の際にモーテル規制を盛り込ませることに成功、再びモーテルという枠組みの中だけであるがその影響力の確保に成功する。そして更なる権力の拡大を警察は目指す。
再び、時期は到来した。さまざまな風俗店が乱立、厚生省はそうしたセックス産業に関しては自らの手に余ると考え始めていた。厚生省が指導できるのはあくまでも衛生面に関してだけである。しかもその指導員は保健所の職員や保健婦といった人達である。そういう人達が場合によっては特殊な人達が運営する店舗に乗り込んでいって十分な指導ができるかといえば、やはり難しいと言わざるを得なかった。
こうした厚生省の弱みにつけ込み、チャンスとばかりに警察はあらゆる業種に対してその権力を及ぼそうと画策する。宿泊業に関してはラブホテルばかりか再び一般のホテル・旅館すべてをも風営適正化に取り込もうと画策する。しかしこれに関しては、厚生省が激しく抵抗、政治家の中にも警察権力の増大を危惧する向きもあり実現に至らなかった。
その結果が、昭和59年の風営法の改正であり、宿泊業に関してはホテル・旅館の中でラブホテルと認定したものに関してのみ、警察は関与することで決着がついたのである。
こうしてラブホテルの規制問題は、厚生省と警察庁と縄張り争いの結果、にっちもさっちもいかない形で現在に至っているのである。

◆高まるラブホテル地域規制

国としてのラブホテル規制は一段落ついた一方で、地方レベルでは依然として過剰な反応をとり続けている。
旅館業法が構造や衛生基準に関しては地方に委任していることもあり、それを根拠に旅館業法施行条例でラブホテルにより強い規制を科したり、更に一歩踏み込んで、独自のラブホテル規制条例を設定したり、ラブホテルに対する強硬な行政指導を施すなどの行為が盛んに行われている。法を遵守すべき公務員が法を無視した行為を平気で繰り広げている。
その結果、実質的にはラブホテルそのものの建築が不可能な地域が出たりと、明らかに憲法違反とも思われるものも出てきている。違法な規制に対してラブホテル業者から訴訟を起こされる自治体が敗訴するケースも少なからず発生しているのにもかかわらず、一向に自治体はその態度を改めるどころか、更なる抜け道を模索している。
何故かくまでも自治体がラブホテルを目の敵にするのかは不明であるが、こうしたことが当たり前のように行われている以上、各地域におけるラブホテルにどのような規制の網がめぐらされているかは、旅館業法や風営適正化法だけではなく、各地域での条例や指導要綱を探って見ないとわからないというのが現状である。

【参考文献】
三段対照式 風営適正化法・法令基準集
風営適正化法関係法令集
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